STORY

フィールドワークで自然を実感したことにより生まれた「行動変容」。その感覚や体験を来園者にも伝えたい

2025.05.30

海につながる東京の川の源流を歩き、地形や水の流れを理解する

2028年のリニューアルオープンに向けて、現在着々と準備が進められている葛西臨海水族園。この事業は、国内から水族館建設のプロフェッショナルを集めた事業者によって行われています。
「STORY」では、事業者である「株式会社東京シアトリエ(以下「シアトリエ」)」 の取組について紹介していきます。

シアトリエが特に注力している取組のひとつに「フィールドワーク(現地調査)」があります。東京の自然を中心に、実際に現地へ行き、生き物が生息する環境を調べ、記録を取り、知識や知見を深めています。

そこで今回は、なぜフィールドワークに力を入れているのか、その背景や意図について探ってみます。

※ 「株式会社東京シアトリエ」は、本事業の実施を目的として、複数の企業が事業体を組んで設立した特別目的会社(SPC:Special Purpose Company)です。

自然環境を理解してから取り組むことを重視

葛西臨海水族園のリニューアルを担当するシアトリエは東京の自然環境を中心にフィールドワークを行っていると聞きました。その狙いは何でしょうか。

シアトリエ:

博物館や水族館などの展示をつくるとき、いつも私たちは伝える内容を深めるために、その土地や環境、歴史、現在の様子など様々なリサーチを事前に行います。特に、新しい葛西臨海水族園では「自然環境そのものを伝える」ことや「海と人の関わり」をテーマに設定しているため、生き物のことだけではなく、生き物が生息する環境も知る必要があると思っています。

現在の葛西臨海水族園は、「東京の海」エリアなど、東京近辺の水辺の展示を行っており、リニューアルに向けても力を入れていきたいと考えています。そこで、まずは私たち自身が「東京の自然」を正しく理解するため、自分たちの目で現地を見た上で本事業に取り組むべきと考え、フィールドワークを始めました。

「東京の自然」を理解するためのフィールドワークはどのように進めたのでしょうか。

シアトリエ:

まずは、調査する場所の選定から行いました。調査エリアは海に限定せずに、山や川など海とつながる根源となる場所も入れました。

次に、調査するエリアごとに、設計、展示企画、展示デザイン、造形など様々な職種を集めたチームを作りました。基本的には、担当チームで調査を進めましたが、それ以外のメンバーも積極的に参加しました。

調査に当たっては、時間の経過によって東京の自然がどう変化してきたのかを知ることで、地形や水の流れなどを理解したいと考えました。そのため、私たちだけで現地を見るのではなく、現地の専門ガイドの方や里山を守り続けている方々にご案内いただきました。

日本の原風景となる里山を専門ガイドと調査

メモやスケッチをもとに、チームでの「対話」を
重視して制作

調査で特に重視したポイントについて教えてください。

シアトリエ:

重視するポイントは担当者の職種によって異なります。
例えば、水族園のコンセプトや展示の企画を考えるプランナーは、現地でガイドをしている方がどのような情報を伝えているのかを知ることで、俯瞰した視点でより良い企画を考えることにつながります。

デザイナーは、水槽内外の景観はもちろん、空間デザインとして展示を伝えることが仕事なので、本物の自然界における景観や環境と生き物の関係を展示で再現するためには、何をどう切り取り、感じさせると水族園の水槽設計・空間デザインとして成り立つのかという視点で調査を行います。

水槽内外などの自然環境をつくる造形チームは、いかにして人工的な空間の中で自然を再現できるかが腕の見せ所となるので、岩の質感や大きさ、植物の生え方や環境の細かい再現ポイントを調査します。

演出チームは、音や空気感を参考にして、それぞれの仕事に活かします。

岸壁などの調査の様子

具体的な取組例を教えてください。

シアトリエ:

ガイドの方や自然を見守ってきた方のお話を聞き、現地に生息している植物や生き物の写真を撮りながら記録していきました。

また、水槽の中の造形をつくるために、造形チーム、デザイナー、プランナーが参加して、海鳥が生息する岸壁や、サンゴ礁、岩礁の調査も行いました。その場で岸壁などを3Dスキャンしてデータを持ち帰って、次の打合せまでに擬岩の模型を作り、水槽内に反映して議論するという流れもありました。

新水族園が伝えたいメッセージやスケッチ、3Dデータをもとに、造形チーム、デザイナー、プランナー、擬岩をつくる専門家が話し合い、「それならばこういう削り方をしたほうがいいね」「ここにはこういう草があったほうがいいかな」と意見を出し合って、より精度の高い造形をすることができたと思います。

フィールドワークの調査結果をもとに、様々なメンバーやチームで対話をして創りあげていくことの重要性を実感しました。

 
※実際に作成した3Dのデータ

現地の3Dデータを作ったことは造形を考える上で有効でしたか。

シアトリエ:

とても有効だったと思います。フィールドワークで現地を見て、その上で3Dデータがあると、生息環境をより深く理解できます。

3Dデータは形を再現しただけでなく、現地に生息している植物もきちんと反映しています。もしかしたら現地に行かなくても、どのような植物が生息しているかを調べて作ることもできるかもしれませんが、資料からの推測だと、実際には存在しない植物などが混ざってしまう、もしくは本当はあるのに漏れてしまう可能性があります。

その点、私たちの3Dデータは植物の専門家なども同行して、生息する雑草の種類も全て記録して作りこんでいるので、非常に精度が高いものになりました。

Future Aquarium Journal 葛西臨海水族園 リニューアル特設サイト