STORY

フィールドワークで自然を実感したことにより生まれた「行動変容」。その感覚や体験を来園者にも伝えたい

2025.05.30

「行動変容」が起こり、「学び」を得られる水族園へ

フィールドワークで印象に残ったことはありましたか。

シアトリエ:

海外に東京をアピールするときに「都会も自然もある」という言葉がよく使われますが、都心で生活しているとなかなかそれを実感できません。今回、海だけでなく山や川、様々な場所を訪れ、そこにくらす生き物を目にし、自然に関わってきた方たちのお話を聞けたことで、本当に東京には自然がたくさん残っていること、多様な生き物がくらしていることを実感しました。

また、海鳥の調査のために行った北海道の天売島(てうりとう)では、「生死」を目の当たりにしました。

天売島には、ウミガラスやウミスズメ、ウトウなどが生息していますが、中でもウトウという可愛い海鳥をたくさん観察しました。ウトウの親鳥は毎日、最長で片道約160 キロを移動してひなに食べさせるために魚をくわえて夕方に帰ってきます。でも、ゆっくり降りてくることが上手にできない海鳥なんです。それでも必死にひなのもとに降りてくる。それを見ると「うまくできないのに頑張って生きているのだな」と感じる瞬間がありました。

そういう姿を見る一方で、すぐそばには何かに襲われてしまったと思われるひなの死骸も落ちていて、生き物のひたむきさや自然界の厳しさなどを肌で感じることがありました。

海鳥の調査。天売島にはウトウやウミガラスなどの海鳥が集まる
夜間に草むらで魚をくわえるウトウ

フィールドワークで得た体験や感覚を新水族園にどのように反映させていきますか。

シアトリエ:

生き物が自然の中で生まれ育っていくところを体現したいと考えています。

自然の美しさを感じる中で、参加メンバーがこどものように無邪気な気持ちになっていることに気づきました。そういう体験を新水族園でも提供したいと思っています。

新水族園は、「行動変容」を促す場所でありたいです。

フィールドワークを通して、自然を実感することで「行動変容」が起きることも分かりました。きれいな水の中で生きる魚を見て、「魚たちのために、きれいな水を保てるように行動しよう」という気持ちが湧いてきました。また、普段私たちは魚を食べています。「私たちの行動は自分たちにも返ってくる」と考えるようになるなど、自然に対する興味・理解がより深くなりました。

私たち自身がそうであったように、生き物の生態や環境を知ることで一人ひとりの「行動変容」につながる場所にしていきたいと思います。

今は、造形による環境の再現や水の動きのつけ方など様々な工夫で、その自然をどのように水槽で再現すれば自分たちが得た感覚が伝わるのかを考えています。現水族園スタッフの方とも「来園者の方には、来園後にぜひフィールドに行ってほしい」と話しているのですが、水槽を見てくださった方が、実際の身近にある自然に行きたくなるような展示にしたいですね。

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