STORY
入園者数6,000万人を突破した葛西臨海水族園が「新たな水族園」へ
2025.03.31

葛西臨海水族園は、上野動物園開園100周年を記念して計画され、「海と人間の交流の場」となることを目指し、1989年に開園しました。
世界初となるクロマグロの群泳や、100羽を超えるペンギン、東京湾から小笠原諸島にいたる海域の生き物の展示などにより、多くの来園者に親しまれ、2023年11月には累計入園者数が6,000万人を超えています。

一方で、開園から35年が経過し、施設及び設備の老朽化や国内外の社会状況の変化に対応する必要が生じており、これらの課題に対応するため、水族園をリニューアルすることにしました。
現在、2028年のリニューアルオープンに向けた準備を進めており、新しい水族園は、海を体感できる空間づくりや、新たな学びや体験を生み出す仕掛けなどを備えた、より魅力的な水族園として生まれ変わります。
ここでは、一大プロジェクト※1を手掛ける事業者「株式会社東京シアトリエ※2(以下「シアトリエ」)」に、つくり手としての思いを語ってもらいました。
※1 このプロジェクトの事業手法にはPFI方式を採用しています。PFI(Private Finance Initiative)とは、公共事業を実施するための手法のひとつで、民間の資金やノウハウを活用し、公共施設等の設計・建設・維持管理・運営を行う仕組みです。
※2 「株式会社東京シアトリエ」は、本事業の実施を目的として、複数の企業が事業体を組んで設立した特別目的会社(SPC:Special Purpose Company)です。
各業界のトップランナーが集結!海のことを考える「アトリエ」に
シアトリエ:葛西臨海水族園のリニューアルに向け、東京都は2022年1月に事業者の募集を開始しました。それを受け、葛西臨海水族園をはじめ、国内有数の水族館設計整備事業に関わってきた企業が中心となり、「水族館建設の各業界のトップランナーを集めよう、ナンバーワンのチームをつくろう」と、建設・設計・展示・飼育設備・アクリルガラスなどの水族館事業の各分野で大きな実績のある企業に声をかけ、その思いに共鳴した企業が集結しました。
事業者の募集には、「INOCHI」というグループ名で参加しました。
これは、訪れた人に自然の中での生き物の役割や命をつなぐ様子を体感してもらうことで、一人ひとりが自然との関わり方を意識し、行動するきっかけを生む施設でありたいと願い、名付けたものです。
その後、2022年8月に事業者に選ばれ、このプロジェクトのみを目的とする会社を設立しました。
社名は「株式会社東京シアトリエ」としました。シアトリエは「海のアトリエ(Sea + Atelier)」を意味する造語です。

この社名には、「海のことを考えるアトリエ(水族園)を来園者に提供したい」、「各業界のトップランナーたちが水族について考えるアトリエ(仕事場)にしたい」、という思いが込められており、人と海との関わりを生み出す新たな場を創り出すことを目指しています。
日本一、世界一の水族館を目指して
「日本一、そして世界一の水族館をつくろう」
私たちは、この言葉をメンバー共通のスローガンとして掲げました。新たな水族館建設にあたり、建築や展示、魚をはじめとする生き物の取扱い、レストラン(飲食事業)など、各業界を代表する企業が集まることは稀少であるため、「このメンバーの総力を結集すれば実現できる」という思いがチームに満ち溢れる中で計画は動き出しました。
ですが、各業界のトップランナーが集まったからと言って、それだけで世界一の水族館が実現するわけではありません。メンバー全員が同じ方向を見て動き、それぞれの強みを生かし、共通の認識を持つことが不可欠です。 私たちがスローガンとして掲げた「日本一、世界一の水族館」も人によって何を基準に評価をするのかは異なるため、はじめに、関わる企業のメンバー全員で意見を出し合い、新しい水族館のコンセプトを言語化することを目的としたワークショップを実施しました。


新水族園のコンセプト「生命と幸せを紡ぎ続ける水族園」に込められた思い
ワークショップのベースとなるものは、東京都が整備する水準を定めた要求水準書と、新たな理念「海と接する機会を創出し、海と人とのつながりを通して海への理解を深める水族園」です。
東京都は理念実現のため、これまでの葛西臨海水族園が担ってきた4つの機能(調査・研究、レクリエーション、教育、種の保存)を以下の6つの機能として再構築しています。
- 展示・空間演出
- 収集・飼育・繁殖
- 調査・研究
- レクリエーション
- 学習・体験
- 環境保全への貢献

新たな理念と6つの機能を具現化するために、つくり手の思いだけではなく、感触や体験を共に分かち合い、水族園に訪れるとみんなが幸せになることを意識しながら、時間をかけて議論を進めました。その中で、水族園は、生き物を扱う施設として生命の尊さを伝え、来園者と生き物の双方が幸せになれる場所である、という観点が出てきました。
そして、議論を重ねた結果、私たちは以下のコンセプトを定めました。
「生命(いのち)と幸せを紡ぎ続ける水族園」
目指すゴールは、「幸せ」です。
35年間紡がれてきた「生命」との歴史、記憶、そして時代を切り拓いてきた独自性。私たちはこうした歴史を受け継ぎ、生き物とふれあい、感じることで生命の循環を知り、新たな海と人との関わりを生みだす場を創っていきます。そしてこれからを担う次世代の水族館を、ここ東京・葛西から始めたいと思っています。
このコンセプトは常に私たちの頭の中にあり、この一大プロジェクトを成し遂げるための揺るぎない指標になっています。
コンセプトを実現するための「5つの幸せ」
コンセプトを実現するためには、ゴールである「幸せ」とは何かを明確にする必要があります。新しい水族園が紡いでいく「幸せ」とは、誰にとってどのような体験なのか、メンバー全員で真剣に議論した結果、次の「5つの幸せ」に行き着きました。
- 生き物の幸せ
本事業の中心は、生き物です。
生き物ファーストで、「飼育・繁殖」しやすい、自然界以上に安心・安全な生息環境づくりを行います。 - 利用者の幸せ
全ての利用者に最高の体験価値を提供します。
来園者の特性に合わせ、常に期待以上の満足を提供することで、次なる来園機会やファンづくりにつなげます。 - はたらく人の幸せ
水族園を支え続けているのは〝はたらく〟人々です。
飼育・研究者をはじめとしたスタッフが、働く歓びを感じられる環境を整備し、はたらく人の夢と誇りを醸成します。 - 多分野・他領域の幸せ
新水族園が成長・進化し続けるためには、多くの分野・他の領域との連携が不可欠です。こうした多分野・他領域の方々も、多くの期待と納得感を得られる協働環境を整備することで、新たな価値を生み出します。 - 未来の幸せ
深刻化し続ける社会課題に対峙し、人と海との未来を語る場とします。
未来を実装するフィールドとして、気付きや学びを生み出し、持続可能な社会づくりに貢献します。
当初は「幸せ」という言葉の抽象性に懸念の声もありましたが、議論を重ねる中で、この言葉が持つ包括的な意味がコンセプトにも合うのではと考えました。新しい水族園は、単なる癒しやレクリエーションを超えて、より深い意味での満足感を提供できる場所となることを目指しています。
次世代の水族館として
5つの幸せで示した通り、私たちは単に楽しいだけの水族館ではなく、生き物を第一に考え、環境への配慮も重視する施設を目指しています。そのために、水族館の新たな視点として、「多様性」「対話」「調和」という3つのキーワードを設定しています。バブル期のような「最大の水槽」「最大の生き物」といった規模の競争は既に終わっています。これからの水族館には、多様性そのものを楽しめる環境とそれを支える対話、そして対話を重ねることで生み出される期待感・納得感ある調和が求められていると考えています。
その中でも、私たちシアトリエが重視しているのが「対話」です。この「対話」に関しては、事業者に選ばれたときにも評価されている点であり、新水族園の核となる視点となっています。人が集まり交流できるスぺ―スをつくることにより 、来園者同士や来園者と運営スタッフとの間で対話を促し、海への理解が深まり、新たな学びが生まれることを期待しています。
時を継承していく水族園へ。多様な楽しみ方ができる、新たな場所に
新しい水族園では、多様な生き物の展示に加え、研究や学びの機会も充実させ、新たな発見を得ることができるようにします。
例えば、家族で訪れた際は、大人もこどももその日、その時の特別な思い出として残るような体験をしてもらい、一度訪れたこどもが「また葛西臨海水族園に行きたい」と自ら言ってくれるような、こどもの好奇心を広げられる空間にしたいと考えています。もしかすると、そのこどもが20年後に葛西臨海水族園で働く生き物の研究者になっているかもしれません。時を超えてつながり続ける場所になってくれたらうれしいですね。
また、多くの方に水族園で過ごす時間を特別な体験と感じていただきたいという思いから、レストランで提供する料理にも力を入れます。海とのつながりを感じながら、食も楽しめる特別な空間をつくりたい。そんな思いで新しい水族園のかたちを模索していきます。
家族と初めて訪れた小さなこどもが、成長して友達や恋人とまた訪れる。時には一人で。時には新しい家族と。世代を超えて、来園者の方々の時を継承していく存在になる、そんな施設をつくっていきたいと思っています。
2028年のオープンまで、ぜひ楽しみにしていてください。