STORY

水槽づくりの舞台裏から見る「水の中の環境をつくる技術」

2026.03.27

葛西臨海水族園のリニューアル工事では、生き物たちのいのちを支える水槽飼育設備の設計・施工が進められています。さまざまな自然環境を再現し、生き物たちが快適に暮らせる環境をつくるためには、水質や水温、水流や酸素量など、水槽の形状や生き物に合わせたきめ細やかな調整が必要になります。新しい葛西臨海水族園でその精密な環境づくりを担うのが、新菱冷熱工業株式会社です。今回の「STORY」では、水槽の裏側で“水の循環”によって生き物たちのいのちを守る、技術者たちの仕事と思いをお伝えします。

参考画像:現在の葛西臨海水族園の「大洋の航海者 マグロ」水槽
の表側と、水槽用循環ポンプや配管類のある裏側(※他社施工事例)

生き物たちのいのちを支える水の循環をつくる

水族館の水槽設備とはどのようなものですか。

新菱冷熱:

一言で言えば、水槽で生き物を飼育するための水をつくる設備です。さまざまな機器や配管によって、「給水、ろ過、排水」と水を循環させ、生き物たちが安全に暮らせる水中環境をつくります。
水族館には、大きさや形状、水量、飼育される生き物の種類など、条件の異なるたくさんの水槽があります。私たちは、水槽ごとに適した水温や水流などを踏まえて機器の配置や配管ルートを考え、設計から施工まで一貫して行っています。

水槽の設備づくりで大切にしていることは何ですか。

新菱冷熱:

一連の工程で最も注意を払うのは、水槽の配管工事が完了した後の水張り作業です。水張り作業では、水を循環させるために水槽や機器、配管に水を充填させていきます。水族館の場合は海水を用いることが多いのですが、このとき、万が一にも海水が漏れると、海水の塩分によって周囲のものを錆びさせてしまう可能性があります。また、口径の大きな配管で水が漏れると、流れる水の量が多い分、広範囲に悪影響を及ぼしてしまいます。施工中も水漏れがないか何度もチェックをしますが、水張りの際には、より一層気を配って作業をしています。
水漏れのようなトラブルを未然に防ぐために重要なのが、正確な施工図です。特に大きな水槽では水の量も多く、直径30cmほどの配管を何本も設置します。限られたスペースで配管同士がぶつからないように配置するには、詳細な施工図が欠かせません。実際の施工においても、職人が手作業で配管をつなぐので、バルブや配管の位置を示す施工図は重要な役割を持ちます。
ただ、このように細心の注意を払って工事を進めても、水槽に生き物を入れるときには「水がきちんと循環しているだろうか」「意図したように設備が機能しているだろうか」と、いつも緊張します。

水槽ごとに設備の設計は違うのですか。

新菱冷熱:

水族館の水槽には、ろ過する水を効率よく吸い込むために、底面に「釜場」と呼ばれる小さなくぼみがあります。釜場をどこに設置するか、ろ過機を通った水をどこから出すかなどは、一つひとつの水槽ごとに設計が異なります。さらに、水槽の形状や大きさによって、水流の向きや作り方も変わります。擬岩(岩を模してつくられた構造物)の配置などによっても水流は変化しますから、展示計画も考慮したうえで設備を設計しなければなりません。

飼育現場の知見を反映した水槽設備づくり

現在進行中の新しい葛西臨海水族園の水槽飼育設備づくりについて、意気込みを聞かせてください。

新菱冷熱:

葛西臨海水族園のリニューアルにあたり、私たちはすべての水槽の設備を担当しています。大型の魚が泳ぐ大水槽から、汽車窓式と呼ばれる壁面に埋め込まれた水槽、バックヤードで使用されるFRP(繊維強化プラスチック)製の水槽など、生き物が入る水槽すべてです。
水槽飼育設備の設計には、決まった正解がありません。それぞれの水槽に違う生き物が暮らし、飼育員さんの考え方や使い勝手も違いますから、水槽の数だけ設計のパターンがあります。ですから、水槽飼育設備づくりにあたっては、飼育員さんの経験やノウハウ、要望を可能な限り引き出して、設計や施工に反映させることが大切です。水槽が完成した後、毎日機器やバルブを操作するのは飼育員さんなので、できるだけ使いやすいシステムを提案したいと思っています。

水槽の設備づくりにおいて、“葛西臨海水族園ならでは”の工夫はありますか。

新菱冷熱:

葛西臨海水族園は、東京湾に流入する河川の河口付近に位置するため、汽水(淡水と海水が混ざり合った塩分濃度が薄い水)を園内に取り込んでいます。そして、この汽水を、海水水槽のろ過機のろ材の洗浄工程にも使用しています。一般的に、海水の水槽のろ過機は海水で洗浄するのですが、汽水を使用することでわざわざ海水を用意する必要がなく、コスト削減にもつながります。
また、新しい葛西臨海水族園の水槽の中でも頭を悩ませたのが、サンゴとそれを取り巻く生態系を再現した大水槽です。サンゴを飼育するには、ただ水を循環させるだけでなく、水流の強さや向きが非常に重要になります。しかし、私たちには水槽飼育設備の技術はあっても、サンゴの飼育に関する知見がありませんでした。そこで、飼育員の方々から助言をいただき、どのくらいの強さでどの方向に水を流せばよいか、その水流を実現するには機器や配管をどのように設置すればよいか、シミュレーションを繰り返し、その結果を分析しながら何度も検証を重ねました。

参考画像:現在の葛西臨海水族園の「サンゴ礁の海」水槽(※他社施工事例)
サンゴの飼育には、水流をコントロールすることが必要不可欠です。

来園者に「また来たい」と思ってもらえる水族園に

水槽設備づくりにおいて、環境への配慮や持続可能な運用のために、どのような取り組みをされていますか。

新菱冷熱:

新しい葛西臨海水族園の水槽飼育設備づくりにおいては、小柄な方でも扱いやすい位置にバルブを設置したり、各種機器を使いやすいように配置したりと、日々のメンテナンスのしやすさについても考慮しています。メンテナンスしやすい設備は建物の長寿命化につながり、長く多くの方々に利用していただけます。また、水の使用量や排出量をできるだけ抑える設計など、環境負荷を低減するための取り組みも、公共施設を支える私たちが果たすべき責任だと考えています。私たちの仕事が、訪れる方々の学びや感動を支え、社会に貢献できることに誇りを感じています。

新水族園の完成に向け、現場では日々作業が進められています。

新しい葛西臨海水族園では、来園者にどのような体験を届けたいですか。

新菱冷熱:

私たちの仕事は、水槽づくりの裏方です。配管の出口なども、擬岩や水槽の釜場の中などに設置しているので、来園者の方々に気付かれることはほとんどないと思います。ただ、その仕事の結果として、水槽の水質が安定し、生き物たちが快適な環境で過ごすことができます。そんな生き物たちを見て、来園者の方々が「きれい」「楽しい」と感じてくださればうれしいです。竣工後、来園者の方々の楽しそうな笑顔を見ることが、私たちの一番のやりがいです。新しい葛西臨海水族園が、多くの方に「また来たい」と思ってもらえるような場所になることを願っています。

来園される方々に見てもらいたいポイントはありますか。

新菱冷熱:

葛西臨海水族園では、普段は見ることができない水槽の裏側や、生き物たちのエサを用意する調餌室(ちょうじしつ)などを見学できるバックヤードツアーが開催されています。リニューアル後も、ぜひバックヤードツアーに参加して、水槽の裏側の設備を見ていただきたいです。水槽の裏側には、表側からは見えない機器や配管がたくさん設置されています。新しい葛西臨海水族園は、バックヤードの水槽の数もとても多いのですが、操作やメンテナンスのしやすさなどを考え、たくさんの機器や配管も収まりよくまとめました。裏側の様子を知ると、水槽を表側から見たときにも、より楽しんでいただけるのではないかと思います。

※掲載している写真内の水槽や水槽設備は、現在の葛西臨海水族園のものです。新水族園の水槽や水槽設備は、現在製作を進めています。

Future Aquarium Journal 葛西臨海水族園 リニューアル特設サイト